役割
走る曲がる止まるがバイクの三要素のうち最も安全にかかわってくるのが“止まる”を実現するのがブレーキです。ブレーキフルードは吸湿性があるので定期的に交換をしなければ劣化して力を上手く伝えられなくなります。レバーを握るとブレーキフルードを伝わってキャリパーに力が加わりブレーキパッドがディスクを押して制動をかける動作がブレーキです。
バイクはブレーキフルード(ブレーキオイル)でブレーキをかけます。ワイヤーと違って延びたりちぎれたり引っかかったりしないメリットがありますが、定期的に交換をしないと劣化してブレーキをかけたときの効きのタッチが異なってくると言う欠点があります。(ベーパーロック現象が発生するという欠点もありますが、これは最後に詳しく書きました)
ブレーキレバーを握っただけで大きく重たい、且つ高速で移動しているバイクに制動をかけられるのは、“パスカルの原理”で僅かな握る力がブレーキフルードを伝ってマスシリンダー(ブレーキピストン)、キャリパーとブレーキパッドへと力が加わり、パッドとディスクの摩擦で制動がかけられるからです。
このため、ブレーキフルードが劣化すると、力が上手く伝わらなくなります。
劣化の主な原因は空気中の湿気です。ブレーキフルードは水分を吸湿する特性があるので、定期的に交換をしておくと、ブレーキをかけたときのタッチを新車に近い状態で保つことが出来ます。劣化したブレーキフルードを使ったままでレバーを握ると、握りしめてもカチッとした感覚が無く、強く握りしめても強いブレーキがかけられなくなります。
交換の目安は一年から二年の間。もしくは一万キロから二万キロの走行距離の間です。フルードのタンクに着いている窓を見て、フルードが茶色く濁っていれば交換の時期と言えます。
それほど頻繁な交換の必要がないものですが、梅雨など雨天の季節に数週間毎日走ると、湿気を吸って一月くらいで劣化します。日本一周ツーリングや日本縦断ツーリングなどで走る場合は、交換の目安を一月に置くと良いです。
劣化しているかどうかは茶色く濁った色で判断するのですが、劣化したブレーキフルードを新品と交換すると、それまでのフニャと言う粘土質だったブレーキのタッチがカチッと言う金属質のタッチに変わるので、誰にでも分かります。
ブレーキフルードを用意します。DOT4を使用します。
ブレーキフルードのネジを緩める大型で山のサイズのあった+ドライバー。
ニップルを回すスパナ。
フルードを抜き取る耐油性ホース。
スパナとホースはブレーキフルードのドレンプラグの外径に応じたサイズのものを用意します。
ブレーキフルード(ブレーキオイル)に限らず、オイル関係を交換する際には必ず入れ口を先に開けます。これは、万一ネジが固着していると、オイル等を抜いた後で新しいオイルが入れられなくなると言う最悪の事態を防止するためです。
フロントのブレーキフルードは大抵はハンドルに入れ口が付いています。プラスネジが使用されていることがほとんどですが、以外と固着していることが多く、上からドライバーを押しつける様にしてネジ山を舐めない様にします。インパクトドライバーは使用しません。
固着して廻らない場合は、最寄のバイクショップで廻して貰って下さい。
入れ口を開けたら、次はブレーキフルードを抜きます。
ニップルがあるので、耐油性のホースを取り付けておきます。耐油性でないホース、例えばゴムホースやビニールホースなどですまそうとすると、作業途中にホースが溶けて場合があります。
ネジ式のニップルをスパナで少しだけ緩め、ブレーキレバーを握ります。そうするとブレーキフィールドが押し出されて来ます。
レバーを握った状態で今度はニップルを締めます。
ニップルを締めた後、ブレーキレバーを放します。
ブレーキレバーを握って古いブレーキフルードを抜きます。
フルードタンク内やホースの中にある古いフルードを抜いて新しいフルードと置き換えるためです。
フルード抜きは、上記の作業と同時に行います。
ニップルを締める前にレバーを放してしまうと、ニップル側から空気が入ってしまい、後で空気抜きに苦労することになりますので、注意してください。
ブレーキフィールドの入れ口を見ると、少しだけ量が減っているのが分かると思います。
減った分だけ継ぎ足します。
慣れてくれば数回上記の作業を繰り返して十分に量が減ってから継ぎ足すようになりますが、継ぎ足さずに量を抜きすぎると空気が入ってしまい、後で行う空気抜き作業がとても大変となります。
慣れるまでは少しずつ抜き、抜いた量だけ補充する、と言うやり方が確実です。
ブレーキフルーはDOT3からDOT5までありますが、DOT4を指定しているバイクがほとんどです。車ほど量は必要ありませんから、補充用の小容量タイプを購入すると良いでしょう。
ブレーキフィールドは水分を吸収するので、購入後缶を開けると使用していなくても少しずつ水分を吸収してしまい、徐々に性能が劣化して行きます。
あまり大きな容量の缶を購入する必要が無い理由です。
ニップルから出てくるフィールドの色は、抜き初めは茶色く濁っていますが、作業を繰り返して行くとやがて透明となります。
透明となったら古いブレーキフルードがブレーキ内から無くなったことになります。
これで作業は終了と行きたい所ですが、レバーを握ってみてふかふかする場合には空気が入っているので、空気抜きをしなければなりません。
空気抜き作業はブレーキフィールドの抜き、補充と全く同じ作業をします。何度も繰り返している内に、空気の固まりがニップルから出てきます。あるいは、上の入れ口から出てくる場合もあります。
レバーを握った感触に違和感が無くなれば作業は終了です。
ニップルを規定のトルクで締め、入れ口を閉じます。
このとき、ブレーキフィールドがバイクに付いていないか確認をします。ブレーキフィールドは腐食性が強いので、付いたままを放置しておくと塗装がはげたりする場合があります。
ニップル、入れ口のネジが締まっていることを再度確認して作業は終了です。重要な保安部品なので、必ず再チェックをしてください。
オートバイのブレーキフルードは、殆どの場合はDOT4が指定されています。自家用車ではDOT3の指定が多いので、オートバイの方がよりシビアな条件下でブレーキをかけていることが、このことから分かります。
カー用品店でブレーキフルードの陳列を見ると、DOT3、DOT4、DOT5と置かれていますが、バイク用品店ではDOT3は置かれていません。
DOT3、DOT4はブレーキフィールドの沸点の違いを表しています。DOT3よりもDOT4の方が沸点が高いので、よりベーパーロック現象が置きにくくなります。
ベーパーロック現象(vapor lock)とは、ブレーキフィールドが沸騰して気化してブレーキが効かなくなることです。
ブレーキホースの中に気体があると、ブレーキレバーを握ったときにスカスカとなってしまい、ブレーキが効かなくなってしまいます。これは、液体は圧力を加えても体積が変わらないのでレバーを握っただけブレーキに圧力が加わるのに対して、気体は圧力を加えると体積が小さくなるため、ブレーキレバーを握ると握った圧力だけ気化したブレーキフルードの体積だけが小さくなるためです。
現代では、車もオートバイも、まずベーパーロック現象は発生しないのですが、幾つかの条件が重なると、簡単に発生します。
以下、わたしの実例です。
2005年秋、福島県の白河市と下郷町を結ぶ甲子トンネルがまだ開通する前の甲子林道が通行できたときの話です。
荒れに荒れた甲子林道を通り抜け下りに掛かると、突然、リアブレーキが効かなくなりました。降りて調べてみると、小枝がリアブレーキのパッドとシリンダーの間に挟まっていて、ブレーキを引きずっている状態となっていたのでした。
リアブレーキが効かないと、バイクの挙動が安定しないので、甲子林道のガレ場を下ることはとても出来ません。やむなく、気化したブレーキフルードが冷えて液体に戻るまで、林道の路肩に駐車して休憩を取りました。
ガレ場の下りでリアブレーキが効かなくなり、バイクをコントロールする事が出来なくなった恐怖は忘れがたい思い出でしたが、考えてみると運が良かったとも言えます。
田代山林道や剣山スーパー林道、パンケニコロベツ林道の様な高速で走れて且つ交通量の非常に多い林道で同様な事態が起こったとしたら、と考えるとぞっとします。
高速林道で同様な事態が起こった場合、ベーパーロック現象が発生した直後に現れる最初のコーナーでブレーキ不能で道路の外に飛ばされてしまうか、不十分な減速しか出来ずコントロールを失った状態でタコ踊りをしながら対向車に突っ込む可能性が高いです。
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H.N.うーたん(Yuichi Mizunuma)
当サイトの執筆・撮影とシステムの製作等全てを行っています。林道への案内板やクライミングトークのWebMasterでもあります。使用バイクのジェベルXCは1997年型、2002年型と乗り継ぎ、三台目の2004年型のジェベルXCを売却して、現在はバイクツーリングには行っていません。、これまでのツーリングの総走行距離は約21万kmです。
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2013年まで、春夏秋冬、北海道から九州沖縄まで、ツーリング・登山・サイクリング・パドリング(カヤック)をしています。年間のテント泊数は40泊から60泊程度、日帰りを含めると年間80日くらいはアウトドアにいました。
現在は東京都八王子市高尾に在住しています。オートバイから少し離れていて、主に登山とサイクリングを趣味にしています。
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