ヤマハ DT200R 3ETのオーバーホール
往年の名車、ヤマハ DT200R 3ETのフロント周りのオーバーホールの解説です。
DT200R 3ETの設計はその後のDTシリーズ、DT200WR、DT125、DT230ランッアにまで引き継がれました。ツーリング中に知り合ったヤマハの社員に聞いたのですが、ランッアのフレームは3ETとほとんど同じだそうです。
DT200Rの整備が出来れば、その後に発売されたDTシリーズの全てが整備できるようになります。
フロントフォークに取り付けてあるネジを緩めます。
赤くさびて見える4つのネジがそうです。緩める順番は常に対角線上のネジを緩めてゆきます。
4つのネジが緩んだらアクスルシャフトを緩めます。
ネジを緩め終えたら、4つのナットを取ります。
ついで写真のようにアクスルシャフトを取り外します。
アクスルシャフトは重要な部品なので、モンキースパナなどを使用せず、写真のようなボックスレンチか、めがねスパナを使用してください。
そうした工具がないときは車載工具を使用してください。
万一、ネジ山をなめると悲惨な事になります。
アクスルシャフトを取り外したあと、ホイールを取り外します。
整備専用のスタンドではなく、写真で使用しているような簡易式のスタンドを使用して整備をする場合は、このとき転倒に注意してください。ホイールを取り外す事により前後の重量配分が変わるので転倒しやすくなります。
フロントフォークを止めているボルトとナットを緩めます。
この箇所はボルトとナットで止められているので、必ずナットを緩めるように気をつけてください。
ネジ山をなめないために、使用するレンチは写真の右のボックスレンチか、写真の左のめがねレンチを使用してください。
フロントフォークの上の方を止めているボルトとナットも緩めます。
ゆっくりとフォークを下に向かって引き抜き、写真の位置で一度、仮止めをします。
仮止めをしたあと、フォークの蓋をスパナで半回転ほど緩めます。
ここで緩めないでそのまま取り外してしまうと、このキャップを取り外すのに後々苦労します。
キャップはボルトではないので、モンキースパナなどを使用します。
右のフォークを取り外し終えたら左のフォークも同様に取り外します。
ただし、DT200Rの場合、左のフォークに沿ってブレーキオイルのパイプが通っているので、ボルトとナットを緩めるのには多少こつがいります。
写真ではボックスレンチにユニバーサルジョイントをつけてボルトを緩めていますが、めがねレンチならもっと簡単です。
ブレーキを取り外します。
ここでは、実は順番を間違えて作業をしました。
本来、ブレーキはフォークの取り外す作業の前にボルトを緩めておきます。
ブレーキは最も重要な保安部品なので、ボルトをなめないように慎重に作業をしてください。希にボルトが熱で固着してとれない事もあります。このとき、無理にボルトを緩めようとすると簡単にネジを切ってしまうので、必ず専門店に相談してください。
ハンドルを取り外します。
ハンドルの下についているナットを緩めるためです。
ナットを緩め終えたら、ハンドルは後の作業をやりやすくするために再び取り付けます。
取り外したフォークからフォークのキャップを取り外します。
写真の通りボルトではないので、モンキースパナなどを使用します。
フォークを取り外す際にキャップを緩めていないと、ここで簡単に取り外す事は出来ません。
キャップを取り外したところです。
フォークを逆さまにしてフォークオイルを抜き出します。
フォークを何度か伸縮させて底に溜まっているオイルも抜き出すようにしてください。10回位伸縮させるとほぼ抜けきります。
このフォークオイルは走行距離で3000キロ、2年間使用していたものですが、かなり色が黒くなっているのが分かると思います。
フォークの中のスプリングなどを全部取り出します。
フォークは逆さまにして中のオイルを完全に抜ききるようにします。
先に取り外したハンドルの下にあるステアリング・ナットを取り外します。
ハンドルクラウンは自然に締め付けがきつくなるようです。
大型のボックスレンチでも取り外せないほどきつくしまっているときは、写真のようにパイプを利用して取り外します。
この際注意してほしいのは、パイプを利用するととても大きなトルクをわずかな力でかける事が出来るようになる事です。
パイプの先端を持って軽く廻したつもりでも、ボルトには非常に大きなトルクがかかってしまいネジを切ってしまう場合があります。
パイプを利用するときは、力加減に細心の注意をしてください。
外しておいたハンドルを仮止めします。
ハンドルをつけておく事であとの作業がやりやすくなります。
泥よけを取り外します。
林道などオフロードを走っているバイクだと、ここに泥がこびりついています。そのときは洗車スポンジなどで泥を落としてからネジを取り外してください。
泥が付いたままネジを外そうとすると、ネジ山をなめる可能性がとても高くなります。
DT200Rのヘッドライトはプラスネジ2つで固定されています。
左右のネジを取り外します。
再びハンドルを取り外します。
ハンドルを止めているナットを取り外します。
整備マニュアルには専用工具(エキゾーストリング&ステアリングナットレンチ)を使用するように書いてありますが、知り合いのバイク屋で写真の方法を教えてもらいました。
貫通ドライバーをナットにあて、ハンマーで軽くたたいてナットを緩めます。このナットの締め付けはとても重要なので、どのくらいの力でハンマーを叩いたか、体で覚えておいてください。
ステアリングをゆっくりと下に引き抜きます。
上側のベアリングは固定されていないので、この作業を雑に行うと上のベアリングをなくす事があります。注意してください。
下側のベアリングをグリースアップします。
古いグリースを新しいグリースを塗り込む事で取り出します。
何回もグリースを塗り込む、時間がかかる根気のいる作業です。
グリースを塗り込む時に、黒い古いグリースがはみ出してこなくなればグリースが入れ替わった事になります。
この作業が時間がかかり面倒だという方は、古いグリースをクレ556を吹きかけて熔解させてしまうという方法もあります。
上側のベアリングとボールレースをグリースアップします。
ベアリングは固定されているわけではないので、紛失しないように細心の注意をしてください。
ベアリングの他に、ボールレースに付着している古いグリースを取り除き、新しいグリースを塗ります。
ステアリングを下から上へ差し込みます。
このとき、上側のベアリングやボールレース、ボールレースカバーが脱落しないように注意してください。
ナットを締めます。
手で閉まるだけしめたあと、取り外した時の感覚を思い出してハンマーで軽く叩きます。
どうしても外したときの感覚が思い出せないという方は、ハンマーで軽く人たたきしたあと、ハンドルを取り付けてから、ハンドルを前後左右に振ってガタが出たりしていないか、ハンドルが重くなっていないかなどを確認してください。このとき違和感があればナットの締め付けトルクの過不足が原因と考えられますので、再度、締め付けを行います。
後の作業がやりやすいようにハンドルを仮止めします。
フォークオイルを入れます。
フォークオイルを抜き初めてから1時間ほど逆さまにしておいてあるので、フォークオイルはほぼ完全に抜けています。
DT200Rのサービスデータのフォークオイルの項目には、オイル量「506cc」、オイルレベル「150mm」となっています。
写真はオイルレベルを計測する自作の工具です。針金をオイルレベルの150mmにしたものです。左がDT200R用、右がジェベル用です。
フォークオイルを入れます。
入れるオイルの量は、サービスデータでは506ccですが、実際に入る量はこれよりもわずかに少ないです。
1リッターのフォークオイルの缶を購入すると、わずかに余ります。
これはエンジンオイルを交換した事のある方ならご存じと思いますが、フォーク内のオイルが完全に抜けるわけではないからです。
フォークに入れたフォークオイルを見たところです。
先ほどの抜いているオイルと比較すると、色の違いがはっきりと分かると思います。
フォークオイルの油面を計測します。
先に紹介した計測用の針金をフォークの上端から下に差し込み、針金にオイルが付着したら十分な量が入った事になります。
フォークオイルは少しずつ入れてゆき、何度も上下に伸縮させて空気を抜きます。
この空気抜きの作業を怠ると、必要なオイル量よりも少ない量しかフォークオイルが入っていないのに、オイルレベルの計測値に達してしまう、という事になりかねません。
DT200Rは古いバイクです。
フォーク内の各パーツに錆が浮いている事があります。
錆を見つけたら目の細かいサンドペーパーで落としておきましょう。素手で錆の箇所をさわってみて、ざらつき感がなくなれば錆落としの作業は終了です。
フォーク内のパーツを組み付けてキャップを手で締め付けます。
フォークを車体に差し込んだら、外したときと同じ要領で途中で仮止めします。
フォークのキャップをモンキースパナなどを使用して締め付けます。
フォークを車体に取り付けるネジを締めます。
左がナット、右がボルトです。
必ず左のナットを締め付けるように注意してください。
ホイールのベアリングをグリースアップします。
要領はステアリングベアリングと同じで、古いグリースを新しいグリースを塗り込む事で入れ替えます。
Oリングはマイナスドライバーを使用して外すと、何度でも利用できますが、ゴムとスプリングで造られているので簡単に劣化します。このとき劣化が見つかったら交換します。
泥よけを取り付けます。
ブレーキを取り付けます。
ブレーキのネジは高温に晒されるので車体に固着する場合があります。固着を防ぐためにモリブデン配合グリースを薄くネジに塗布します。
ホイールを取り付けます。
アクスルシャフトには固着防止とさび止めをかねてグリースを薄く塗布します。このグリースは通常のグリースでかまいません。
ホイールを取り付けます。
アクスルシャフトを慎重に増し締めて行きます。
この過程では完全にアクスルシャフトは締めません、仮止めです。
アクスルシャフトを固定するネジを仮止めします。
そのあとでアクスルシャフトを締めます。アクスルシャフトを締めるときはスピードメーターに気をつけてください。フォークにスピードメーターを固定する出っ張りがあるので、この出っ張りにスピードメーターがぴったりと合うように締めます。
フロントフォークのネジを締めて固定します。
フォークの固定を終えたら車体を浮かせている整備台座(整備用スタンド)を取り外し、フロントタイヤに通常の荷重がかかるようにします。
ステアリングを固定します。
外したときのようにパイプを使用する必要はありません。
大型のスパナーで力一杯締め付けます。
ハンドルを固定します。
スピードメーター側のボルトを手で締めます。
その後、タンク側のボルトで締め付けてゆきます。
このとき、ハンドルの角度や中心線からのずれなどに気をつけてください。
ヘッドライトを取り付けます。
オーバーホールでは沢山のネジの取り外し、取り付けを行います。作業をしているときは万全にネジを締めたつもりでも、万一という事があります。特に保安部品などで締め忘れや、締め付けトルクが不足している場合、即事故につながります。
作業が終了したら、作業に関わりのあったネジを全て増し締めして確認をします。
ネジを締めてゆくと、各部からグリースがはみ出してきます。このグリースを放っておくと泥やゴミが付着しやすくなり、故障のもととなるほか、ツーリング先でのパンク修理などでも邪魔になります。
全ての作業が済んだらはみ出しているグリースをふき取ります。
写真はアクスルシャフトからはみ出したグリースです。
ネジの増し締めとグリースの拭き取りが終わったら作業は終了です。
作業が終了したら、出来る限り試運転をしておきましょう。
ハンドルの角度や、ブレーキのきき、ブレーキ・クラッチレバーの角度を確認しておきます。
この試運転で問題がなければ全ての作業は終了です。
取り外した部品とネジ類の保管例です。
最低限、分散して無くしたりしないようにしておかなくてはいけません。
オーバーホールの経験が少ない方の場合、写真のように1つの箱に一緒くたにして入れるのは好ましくありません。どのネジがどこで使用してあったのかが分からなくなるからです。
複数の箱を用意しておき、ネジを分類しておくのが賢明です。
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H.N.うーたん(Yuichi Mizunuma)
当サイトの執筆・撮影とシステムの製作等全てを行っています。林道への案内板やクライミングトークのWebMasterでもあります。使用バイクのジェベルXCは1997年型、2002年型と乗り継ぎ、三台目の2004年型のジェベルXCを売却して、現在はバイクツーリングには行っていません。、これまでのツーリングの総走行距離は約21万kmです。
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2013年まで、春夏秋冬、北海道から九州沖縄まで、ツーリング・登山・サイクリング・パドリング(カヤック)をしています。年間のテント泊数は40泊から60泊程度、日帰りを含めると年間80日くらいはアウトドアにいました。
現在は東京都八王子市高尾に在住しています。オートバイから少し離れていて、主に登山とサイクリングを趣味にしています。
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